健康ジャーナル 2015年5月19日号より
「黒酢」 坂元醸造
-その未知なる魅力-
免疫賦活、抗腫瘍作用が明らかに
動物実験で実証された黒酢もろみ末の機能性
高血糖、高脂肪抑制効果の報告など、鹿児島大学における研究進む
鹿児島県霧島市福山町で江戸時代から伝統的製法により造られている黒酢は、原料が蒸し米・米麹・地下水のみで、これらをひとつの陶器の壺に入れて醸造する。
壺の中で原料が混ざり合うことで、糖化・アルコール発酵・酢酸発酵といった過程が順次進行していく。
その後熟成した上澄みの部分が黒酢となり、壺の底に残る不溶性発酵残渣は「黒酢もろみ」であり、この「黒酢もろみ」を乾燥させて粉末化したものが「黒酢もろみ末」である。
黒酢の機能性としては脂肪代謝改善作用・高血圧抑制作用・糖代謝改善作用・肝機能改善作用などこれまでにも多くの効果が報告されている。
また近年は黒酢もろみ末にもいくつかの有効性が認められており、特に抗アレルギー作用・血清コレステロール低下作用・抗腫瘍作用などが動物実験や臨床実験でも報告されている。
鹿児島大学農学部候徳興教授グループは、黒酢の機能性研究の一環として、黒酢の免疫賦活作用及び黒酢もろみ末の高血糖抑制効果について検討を行ったことを報告している。
この実験は、はじめに正常なマウスに黒酢摂取させ、そのNK細胞活性を測定し、さらに黒酢を分画して得た構成部分を、S-180という腫瘍を移植したマウスにに摂取させ、免疫賦活作用および抗腫瘍作用にどのような変化が起こるかを解析したものだ。
黒酢成分を正常なマウスに21日間連続投与したところ、マウスの脾臓のNK細胞の活性が有意に増加したことが認められ、また黒酢および黒酢の分画成分を腫瘍移植マウスに投与したところ、腫瘍の増大が明らかに抑制されたことも認められたという。
さらに分析を行った結果、腫瘍移植マウスの方は腫瘍の増大抑制に加え、脾臓のNK細胞の活性が有意に増加することや、サイトカインのIFN-γ、TNF-α、IL-12の分泌が有意に増加することも明らかになった。
IFN-γ、TNF-α、IL-12はキラーT細胞を活性化する司令塔の役割を果たす物質であり、これらのサイトカインが豊富な環境になるとキラーT細胞だけでなく、NK細胞も活性化することから、黒酢には免疫賦活作用だけでなく、抗腫瘍作用があることも明らかになった。
また、Ⅱ型糖尿病モデルマウスを用いた、黒酢もろみ末の高血糖抑制効果についても検討を行ったことも同時に報告。
黒酢もろみ末を摂取させたマウスは、コントロール群に対して飼育40日より血糖値が有意に低下し始め、血中総コレステロール濃度、中性脂肪濃度、肝臓中の中性脂肪含有量も有意に低下したことを報告している。
この他、ブドウ糖を血中から筋肉に運ぶ役割を果たすGLUT4が筋肉細胞表面に増加することもわかった。
GLUT4がよく働く状態というのはブドウ糖がしっかりと体内で働き代謝される状態で、糖尿病の治療には非常に有効だが、GLUT4は有酸素運動や筋肉量を増やすことで増加することが知られており、食による変化はあまり知られていなかった。
しかし今回の研究で、黒酢もろみ末の摂取によっても筋肉中のGLUT4に有意な変化があったことがマウス実験で明らかとなり、この点は非常に注目すべき点である。
黒酢や黒酢もろみ末はその構成成分が非常に複雑で、先に示した有効性も成分が単独で機能しているのではなく多糖などによる働きではないかと推測される。
また、動物実験でも長期服用で変化が起こる、つまりヒトにおいても長期服用により健康維持に役立つ機能を発揮することが考えられる。
進歩するD-アミノ酸研究
黒酢はD-アミノ酸を含有する優れた次世代食材
さて、グリシンを除く全てのタンパク質構成アミノ酸はα炭素にキラル中心を有しており、D体、L体と呼ばれる鏡像異性体が存在する。
長い間、ヒトを含めた高等動物体内のアミノ酸はL体のみであり、D体は少なくとも機能分子としては存在しないと考えられてきた。
しかし1980年代の後半から様々なのD-アミノ酸がヒトを含む哺乳動物にも存在し、明確な生理機能を有することが示されてきた。
全てのキラルアミノ酸を対象に定量解析を行うメタボロミクスにおいては高い分離能を有する分析システムが不可欠であり、これを可能とするキラル二次元HPLCが開発され分析が可能となったことでD-アミノ酸の研究は一気に進んできた。
その結果、黒酢中にはD-セリン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-アラニン、D-アロイソロイシン、D-ロイシンの存在が認められ、その分量は発酵過程で変化することが明らかになった。
D-アミノ酸は生理機能以外に呈味作用も認められており、今後はこれらのD体含量を考慮したプロダクト開発が期待される。
黒酢の原理中にはD-アミノ酸が皆無であるため、発酵途中で微生物がL体をD体へと変化させているのではないかと思われる。
一般的な酢(早醸酢)に目立った生理機能があまりないことに対して、長期発酵熟成の壺造り米黒酢では様々な生理作用が認められている所以かもしれない。
九州大学大学院薬学研究院 創薬育薬産学官連携分野 浜瀬健司准教授は「D-セリン」は脳における学習・運動記憶の効率的獲得に必須であり、D-アスパラギン酸は内分泌組織においてホルモンの分泌を制御している。
また、D-アラニンは皮膚等での美容作用が注目されている」と報告。
これらの知見は、D-アミノ酸高含有食材が次世代の機能性食品・飲料になり得ると発表している。
天然つぼづくり米酢協議会
独自性打ち出す鹿児島県福山町産「黒酢」
地理的表示保護制度へ申請
さてそんな中、鹿児島県天然つぼづくり米酢協議会(坂元昭夫会長)は6月1日からの受付が予定されている「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」の元で運用される、地理的表示保護制度へ申請を予定している。
これまでにも農水省が推奨する「Eマーク」(農水省ふるさと認証食品)や(一財)食品産業センターが推奨する「本場の本物」認定マークを取得して、福山町産黒酢の独自性を打ち出してきた。
江戸時代の1800年代初期から鹿児島県霧島市福山町一帯において、壺を使って米を原料にした食酢が野外で醸造され始めたと伝えられる。
坂元醸造(株)では米麹と蒸し米と地下水のみで仕込みを行い、黒酢と呼ぶ以前は「天然米酢」ということで製造していた。
この食品は出来上がると黒っぽく琥珀色に色がついてくるので、昭和50年にこれを「黒酢」と命名し以来これを「黒酢」と呼んでいる。
原料の米は籾を外した丸玄米の表面に僅かに傷をつけた三分づき米(昔から日本人の食してきた玄米といわれている米)のみを使用している。
原料の米は国内産に限定し、他のものは一切使用しないとのことだ。
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